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氷河学に関する基礎知識

-これから氷河学を学ぼうとしている人達へ-

<氷河学を担う人々>

国内外を問わず,氷河学を担う研究者は異なるバックグラウンドを持つ二つのグループを含んでいる.一つは,地形や自然地理に興味を持つ人々であり,地理学者・地質学者・地形学者などがこれに相当する.もう一方は,現象の物理的・数学的性質に興味を抱く人々であり,彼らにとって氷河は,時には個々の事象を説明すること以上の普遍的な意味合いをもつものとして捕らえられることがある.このグループには,物理学者・数学者・物性学者・結晶学者などが含まれる.

このように,氷河学には,知的にも美学的にも全く異なる観点で課題にアプローチしようとするグループが存在する.さらには,学問領域ごとに異なる教育的背景があることによって,全く異なる研究スタイルや,科学的言語を用いるようになっている.とはいえ,氷河学におけるこれらの異なるグループは,伝統的に,相互に関係しあってきた.歴史的にみても,氷河学はその発足当初には,以前から存在していた別の科学分野からの参加者によって始められた経緯がある.最新の氷河学の著しい特徴は,異なるバックグラウンドの技術を調和させることによって生まれる効果があることであり,その中で氷河学者たちは錬磨され,複数の学問領域からのアプローチに充分応えるだけの素養を身につけつつある.

-P.G.Knight著「Glaciers」(1999)より抜粋意訳-


<氷河地質学>

第四紀,地球の歴史の中で最も新しいこの時代は,約200万年前に始まった.この時代の最大の特徴は,氷期と間氷期をもたらした顕著な気候変動が頻繁に繰り返されてきたことである.第四紀地質学は過去200万年間の環境変化を研究する分野であり,氷河地質学は,その中でも氷河や氷床の地質学的作用に焦点をあてている分野である.したがって,氷河地質学は「第四紀学」「自然地理学」「地質学」「雪氷学」が「氷河」をキーにして融合している分野であるといえる.具体的には,気候変動に対応した地層層序の解明,氷河堆積物や氷河の侵食地形の記載,それらの解釈ならびに発達史等を扱っている.氷河地質学で最近注目されているのは,氷河堆積物の特徴,氷河底での地質学的プロセス,大陸氷床下での水文学的プロセスなどである.


<日本の氷河における氷河地質学的問題点>

現在の日本には氷河は存在しないが,氷河地形や堆積物などの痕跡によって,第四紀の氷期の日本アルプスや北海道の山岳地域に氷河が存在していたことが確認されている.しかし,どのような状態の氷河が,いつ・どこまで・どのように気候変動とむすびついて消長したか,ということについては,まだまだ未解明な部分が多く残されている.


<日本の氷河学事情>

日本で氷河について研究したいと思った場合,どこをとっかかりにしたらよいのであろうか?すくなくとも今の日本には「氷河学会」は存在しないし,大学で「氷河学科」を標榜しているところもない.学部レベルで氷河に関する講義を定常的に開講しているという話も聞かない.しかし,氷河を対象にした研究をしているところが存在していることは確かである.

学会や学科としての単位でまとまってはいないが,研究者が相互に協力して独自の氷河学コミュニティを形成している.その中心的な役割を果たしていると思われる組織を紹介しておく.


<はじめて氷河・氷河時代を学ぶ際のお勧め参考図書>

iwata.jpg 氷河地形学 / 岩田 修二 (著) . - 東京大学出版会, 2011.

氷河地形学の決定版!これだけはぜひ読むべし!.

hyoga.jpg 氷河 / 藤井理行[ほか]著. - 東京 : 古今書院 , 1997.11. - (基礎雪氷学講座 / 前野紀一, 福田正己編 ; 4).

氷としての氷河の特性・氷河の分布・氷河地形など,国内の第一線の研究者が分担して執筆している良書.

gg.jpg Glaciers & Glaciation / Douglas I. Benn, David J.A. Evans. - London : Arnold , 1998.

最新の研究成果を盛り込んだ,大学院レベルの専門書.

iceage.jpg The Great Ice Age / R.C.L.Wilson, S.A. Drury and J.L.Chapman - London & New York, 2000.

氷河時代に代表される過去260万年の地球の歴史を,最新の研究成果を盛り込んで分かりやすく解説した教科書.
英語だが,入門者にはうってつけの好著.


T.Sawagaki



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